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著:坂口恭平 版元:文藝春秋 P272 四六判並製 2021年9月刊 装画・口絵(16ページ):坂口恭平 デザイン:中川真吾
今、僕は自分自身と完全に一つになったような気がする。それ以上の平安がどこにあるだろうか。それが鳥であり、猫であり、虫じゃないか。地に足をつけるとは、このことを言うのではないか。土に聞くまでもない。僕が土になったのだから――。
有明海を望み、雲仙岳を見晴らし、故郷の河内につながる熊本の地で、師匠ヒダカさんの背中を見ながら坂口恭平は畑を始めた。畑に通い、野菜や猫たちとふれあう日々は、彼を健やかにしていく。土や猫たちとふれあうとき、彼は内ではなく外を向いている。しかも、それらに取って、彼はただの人間でしかない。だから、気兼ねなく他者である猫や畑の野菜や生類たちとつきあえる。土は彼を健やかにし、ときおり幸せとすら言える時間をつくりだす。誰にとっても「土」が有効とはもちろん言えないし、坂口恭平がふたたび落ち込む日もあるだろう。それでも、この本を読むことが、それぞれの「土」的なものを見つける手助けになればいいなと思う。