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著:駒沢敏器・山本彩香 写真:関博 題字:池多亜沙子 版元:スイッチ・パブリッシング P224 四六変型判 2023年4月刊 装丁:宮古美智代 寄稿:池澤夏樹・新井敏記
“ほんとうの琉球料理”をひとりで守り抜いてきた女性がいる。今では伝説となった沖縄の名店「琉球料理乃山本彩香」の料理人、山本彩香さんだ。作家・駒沢敏器は取材を申し込んだ。それは単に琉球料理を取材するものではなかった。
沖縄出身の母と東京出身の父を持つ山本さんは1935年東京生まれ。貧しさから、2歳で伯母カマトが尾類(じゅり)(芸奴)を務める那覇の花街「辻」へ養女に出される。当時尾類は芸事だけでなく料理もつくって客をもてなしており、カマトは料理の名人だった。戦火が激しさを増すと、二人は辻を離れ、疎開する。戦後は貧乏で学校にも行けず、15歳で女中奉公に出され、その後も苦労の連続だったそう。山本さんが語る料理の基本原理は三つ。「ぬちぐすい」は身体にいいこと。「てぃーあんだ」は手抜きをせず愛情を込めること。そして、「とー、あんしやさ」。料理ができなくなったカマトが、初めて他者の手による「どぅるわかしー」(田芋を使った琉球料理)を口にして「とー、あんしやさ」と養女を認めた。この味でよし、という意味だ。残念なことに駒沢さんは逝去され、山本さんの店も閉じた。しかし、連綿と続く味の記憶は受け継がれるだろう。