




著:キャサリン・レイシー 訳:井上里 版元:岩波書店 P254 四六判上製 2023年8月刊
ほんとうの自分、一貫した私、なんてものはなくていいんだと静かに伝えてくれる、有難い、かつ実に面白い物語。と同時に、そんなものがあることにしているせいで人間がいかに無理しているかを暴く、ひどく恐ろしい物語でもある。ー柴田元幸(帯より)
語り手〝ピュウ〟は、アメリカ南部の小さな町に突然現れる。町には敬虔なキリスト教徒が多く、誰もが顔見知りの保守的な町だ。「黒人差別」という排除の歴史がある町でもある。ピュウとは教会の信者席のこと。見かけからは人種も年齢も性別もはっきりとせず、名前や過去も語ろうとはしないので、発見された場所にちなんで牧師に名付けられた。町の人々はピュウの素性を知りたがるが、彼らはピュウを排除しようとはしていない。むしろ親切であろうと努力するのだが、差別的な言葉や、異質な存在に対する心情がふともれる。物語に引き込まれ、ピュウの視点で町を移動しながら、自分もまた物語に問いかけられている。