著:ミシェル・クオ 訳:神田由布子 版元:白水社 P393 四六判並製 2020年5月 装丁:奥定泰之
ハーバード大学卒業後の進路に悩む著者は、教育支援団体に入って、2年間だけ教師となる。行き先は、アメリカ南部の最貧地区にある底辺校。自身も台湾系移民の娘で、差別を受ける側である彼女は、公民権運動家たちの言葉に魅了されてきたので、かつて心揺さぶられた黒人文学を通じて生徒たちにアメリカの歴史を教えようとするのだが、うまくいかない。難しすぎるし、彼らにとってリアルではないからだ。しかし、生徒たちの生活により近しい本を紹介すると、彼らは本に親しみ、自分の言葉で語るようになる。なかでも驚くべき成長を見せたのが、パトリックという少年だった。弁護士になるため町を去った著者はある日、パトリックが人を殺したという知らせを受け、就職を延期し、ともに本を読むために拘置所へと通いはじめる。読み書きもおぼつかなくなっていた彼はやがて、詩をそらんじ、俳句を読み、ジェイムズ・ボールドウィンの評論まで読破するようになる。だからと言って、読書が彼を救ったとは言えない。前科者であることに変わりはないからだ。しかし、救ったとも言える。彼の内面は言葉によって確実に豊かになった。パトリックのことを描きながら、同時に、私たちすべてに関係のある「不平等」の歴史について語っている本です。