著:アン・ボイヤー 訳:西山敦子 版元:里山社 P288 四六判並製 2023年7月刊 装丁:名久井直子 装画:横山 雄
病気に関する本ではあるが、闘病記ではない。著者は詩人でエッセイスト。2014年に41歳でトリプルネガティブ乳がんになり、米国の医療制度のもとで治療を受けた。彼女は病気と向き合いながらも思索をめぐらし、乳がんで命を落とした女性作家たちの声をよみがえらせる。 「死んだ女性たちからなる反乱軍を、この世に生き返らせたかった」とエピローグにあるように。「病気は決して中立的なものではない。治療はイデオロギーと無縁ではありえない。死が政治性を免れることもない」と彼女は書く。貧しい地域に住む、結婚していない乳がん患者の生存率が、全体で最も低いそうだ。著者は貯金のないシングルマザーで、パートナーも近くに住む家族もおらず、抗がん剤治療のあいだもずっと働き続けねばならない。著者は書くことで「私」であり続ける。がん患者だからといって「私」のアイデンティティを消す必要はなく、「私」ががんを内包すればよいのだ。