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著:温又柔・木村友祐 版元:明石書店 P336 四六判上製 2020年10月刊 装丁:間村俊一
2009年に「すばる文学賞」でともに小説家デビューした温又柔と木村友祐の、どこまでも真摯な言葉で交わされる往復書簡。読んでいると、あなたに世界はどう見えていますか、と問われているような気持ちになる。彼らは、私たちが抱える無数の差異のあいだに横たわる不均衡をあらわにしようと、もがく。木村さんは、津波から逃げる人に向かって「逃げでぇ、逃げでぇぇ!」と叫ぶ年配の女の人の声と、与党の政治家が口にする「被災者に寄り添う」という空疎な響きの言葉を並べる。施す側と施される側、人間と動物、健常者と障碍者、異性愛者と同性愛者……。かき消されようとする側の声に耳を傾ける。さらには、同じ方向を向いていると思える互いの差異にも目を向けていく。女性と男性、台湾国籍者と日本国籍者、東京出身者と地方出身者……。持てる者と持たざる者は、どこに視点を置くかで変わってしまう。まっとうであるためには、あらゆる方向に目を向けなければいけない。温さんが自分に向けた「見ようとする責任をどのように果たすべきか」という言葉を胸に刻んだ。