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著:石垣りん 版元:中央公論新社 P320 文庫判 2023年2月刊 解説:梯久美子
14歳から働き、戦後は家族を養ってきた石垣りんが、定年間近にようやく手に入れた終の棲家は、川のほとりの1DK。地名は南雪谷。おりん婆さんは雪のお山へ、りんは雪の谷へ行く、と「楢山節考」の姥に自分を重ねる。買った本だけでなく、未知の人から送られた自費出版の詩集が家中に山と積まれ、食事をする場所もなかったという。石垣さんのまなざしは、常に階級社会で上を見上げねばならない人へと寄り添う。老年が訪れたとき詩はなぐさめになるかという自問に、「そんな甘ったるいのが詩であるなら、お砂糖でもナメテオケ」と言う彼女は、終生たじろぐことなく言葉を放った。