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著:エリザベス・ミキ・ブリナ 訳:石垣賀子 版元:みすず書房 P360 四六判上製 2024年2月刊 装丁:鳴田小夜子
「わたしは一編の沖縄の物語。一編のアメリカの物語」と語る著者のアイデンティティは長い間揺れ動いていた。母は1948年生まれ、嘉手納出身の沖縄人、父はベトナム帰還兵だったイタリア系米国人。自身は米国で生まれ育ち、子ども時代は社会になじめない母を疎ましく思い、強者である白人男性の父をヒーローだと信じていた。家族の歴史を綴る章の間に、沖縄の歴史をたどる章が差し込まれている。沖縄の章では、語りの主語は「わたしたち」だ。侵略され、翻弄され、傷つき損なわれながらも生き延びた「わたしたち」。沖縄のことを、両親のことを知れば知るほど著者もまた傷つき、身が引き裂かれるような思いを体験する。アジア人の血をひくことで人種差別される側にありながら、同時に母親を軽視し、差別してきた。だが、いろんな経験を重ねていくうちに母への理解が深まり、孤独を抱えて生きてきた母の強さを知っていく。家族との葛藤も、無意識の差別感情も、誰しも抱えた経験があるからこそ、多くの「わたしたち」を孕んでいる物語。